君は僕のことを書くために
僕と一緒にいたのだろう
東郷青児
宇野千代さんの代表作「色ざんげ」は、当時の恋人東郷青児さんの半生を綴ったものだと言われています。そのとき東郷さんはこうおっしゃったのだそうです。
私も似たようなことをよく言われます。
男性であれ女性であれ。
「私のことを書くんでしょ」
と言われたことがあります。
でもそう言われる人のことほど書いたことはあまりないです。
「私のことを書いてください」
とあちらから迫ってくることも年に何度もあります。
そういう人のことを書いたことは一度もありません。
思うんですけど、
自分ですごい人生だと思っている人ほど、
作品としては成立しないんじゃないんでしょうか。
ドラマのような人生イコール、
小説になるような人生ではないんです。
私は「ドラマティックなストーリー」を書きたいんじゃないんです。
本当のドラマってそれはとってもシンプルなことなんじゃないんでしょうか。
書き手である私自身が心を揺さぶられなければ、絶対に小説なんて書けません。
私はドキュメンタリー作家じゃないんですけど、
ひとびとはよく、
「ほらすごいでしょ」
「ほらこのことを書けばいいじゃないの」
といろいろ差し出してくれます。
それはありがたいのですけど、
自分で素材を探してくることが、悦びのひとつだったりするので、
あんまりそこからインスピレーションを得ることは、ありません。
料理の材料と同じです。
素材を見つけて、なんだかおいしそうと思って手にとって、
充分に全体を眺めて吟味して、一口かじってみて、
いけると思ったら、むしゃむしゃ食べてしまいます。
おっと話がそれました。
宇野さんは、きっと、東郷さんのことがとっても好きだったのでしょう。
だから書かずにいられなかったんでしょう。
多分、ただそれだけ。シンプルに「大好き☆」だっただけでしょう。
作品に書き手が惚れ込んでこそ、真実の作品ができるんだと思います。
男として好きだったのか、
モデルとして好きだったのか、
それは、わかりません。
でも、好きだな〜って思ったから書いたんじゃないんですかね。
宇野千代さんのことだもの。
画家であった東郷さんの描いた作品に、宇野千代さんがモデルといわれる「黒い手袋」があります。
宇野さんの「大好き☆」に東郷さんが「僕も好きだよ☆」と永遠にこたえてくれたら、
すごく素敵なハーモニーができた気がします。
ふたりはその循環がうまくいきませんでした。
だから、結局東郷さんがモトカノとヨリを戻して、二人の愛は終わりました。
なんだかかなり残念です。
でもいいか。一往復は、できたんだもんね。
なんちゅーか、うらやましいのよ。
私も誰かと作品を交換してみたいなー。
「(≧∇≦)/ほぉら☆」って投げたら「やったなー、よぉし!」みたいに返ってくるような。そーんな楽しそうな恋愛ってしたことないかも!?

色ざんげ